小さな失敗をさせる勇気――自然な結果から学ぶ、日本式「見守る」子育て

朝6時45分。お母さんが5回目の声をかけます。「起きなさい、遅刻するよ!」 服を着せ、カバンを背負わせ、車に向かう途中でおかゆを何口か食べさせる――多くの家庭でおなじみの朝で、どれも愛情から出たことです。ただ、ひとつだけ小さな問いがあります。子どもが30歳になったとき、だれが起こしてあげるのでしょう?

小さな失敗をさせるとは、自分のことを自分でやらせ、その小さく安全な結果――寝坊したら遅刻する、など――を子ども自身に受けとめさせることです。親が何でもやってあげるかわりに、自分で自分のことができる力を育てます。
- 自然な結果とは、子どもの行動のあとに自然に起こること。親が罰を足す必要はない
- 失敗させるのは、結果が小さく、安全で、すぐに終わるときだけ
- 交通・水・火・薬・知らない人:ここは必ず親が止める
- 放っておくのではない:前もって準備し、近くで見守り、あとで一緒に考える
- 失敗のあとは「だから言ったでしょ!」ではなく「次はどうする?」
- 日本ではこれを「見守る」と言う――手は出さずに、目を離さない
過保護・やってあげすぎで、子どもは何を失う?
代わりにやってあげるほうが、速くて、きれいで、涙も少なくてすみます。でも、親が代わりにやるたびに、子どもは練習の機会を一回失います。いつも起こしてもらう子は自分で起きられるようになりませんし、忘れ物をいつも親が届けてくれる子は、自分でカバンをそろえることを覚えません。
子どもの頭の上をぐるぐる飛び回って、転びそうになるたびに手を出す親のことを「ヘリコプターペアレント」と呼ぶことがあります。よく使われる言い方で、診断名ではありません。アメリカで422人の子どもを8年間追った研究(Perry ほか、2018年)では、2歳のときに親の管理が強すぎたことが、5歳で気持ちや行動を自分で調整しにくいこと、10歳で学校での困りごとが多いことと関係していました。これは「関係がある」という結果で、過保護が必ずそうさせる、という証拠ではありません。
子どもが自分でやり、親は見守る
- 目覚ましを自分でかけられる
- 準備にどれくらいかかるか分かる
- 忘れ物をしたら自分で先生に言える
- 「自分はできる」と思える
親が全部やってあげる
- 起こされるのを待ち、呼ぶほど眠る
- 忘れ物は親が届けてくれるのを待つ
- 遅刻は「お母さんが起こさなかったから」
- 「自分はまだできない」と思う
子どもが30歳になるまで起こし続けることはできません。でも今日から、自分で起きる練習を始めることはできます。
自然な結果とは? 寝坊して遅刻した朝のお話
自然な結果とは、子どもがしたこと・しなかったことのあとに、だれが仕組まなくても起こることです。上着を着なければ寒い、寝坊すれば遅刻する。心理学者のルドルフ・ドライカースが1960年代からこの考え方を子育てに広めました。「ポジティブ・ディシプリン」の土台にもなっている考え方です。
罰は、親が関係のないことを足すことです。たとえば、忘れ物をしたからテレビ禁止。自然な結果は、子どもの行動そのものに教えてもらいます。8歳のミンくん(例として作った人物)のお話を見てみましょう。
- 前の晩一緒に目覚ましをセット
お母さんとミンくんで決めました。明日から目覚ましで自分で起きる。お母さんが声をかけるのは1回だけ。
「自分で起きられるよ!」 - 次の朝目覚ましを止めて二度寝
お母さんは約束どおり1回だけ声をかけて、それきり。2回目も、5回目もありません。
「時間だよ。」 - 学校で遅刻して教室へ
お母さんはいつもどおり学校まで送り、道中ずっと叱ることもしません。ミンくんは自分で先生にあやまり、先生は軽く注意。友だちの前で、ちょっとはずかしい思いをしました。
「明日は時間どおりに来ようね。」 - その晩ミンくん、自分で考える
目覚ましを10分早くし、ベッドから離して置き、カバンを玄関に用意しました。
「目覚ましは机の上に置こう!」
お母さんはひと言もお説教をしていないのに、ミンくんは3つの工夫を自分で思いつきました。自分で気づいたことは、百回言われるより長く覚えていることが多いものです。
できれば先生に前もって伝えておきましょう。「いま、自分で起きる練習をしています。遅刻したら、ほかの子と同じように注意してください。」 放っているのではなく、家庭と学校の連携だと分かってもらえます。
させてよい失敗、させてはいけない失敗は?
小さな失敗をさせることは、危ない目にあわせることではありません。一歩下がる前に、ひとつだけ自分に聞いてみてください。もし失敗しても、結果は小さく、安全で、すぐに終わる?
結果は小さく、その日のうちに終わり、だれもけがをしない。
- ノートやハンカチを忘れる:先生に注意される
- 寝坊する:遅刻する
- 水や牛乳をこぼす:自分でふく
- おもちゃを出しっぱなし:見つからない
結果が少し大きいので、親が予備の手を用意しておく。
- 上着を着たがらない:カバンに1枚入れておく
- 大事なテスト:1回だけ声をかけて、あとは自分で準備
- 友だちとけんか:話を聞いて、すぐには口を出さない
- かんたんな料理に挑戦:大人が台所にいる
危険、健康にかかわる、取り返しがつかない。
- 道路、車やバイク、ヘルメット
- 深い水、火、電気、ベランダ
- 薬、熱や病気
- いじめ、暴力
- ネット上の知らない人
ハノイでは、大人と一緒にバイクや車で通学する子が多くいます。ですからこの記事では、子どもひとりで道を歩かせることはすすめません。交通はいつも赤信号です。
一日の中にある「自然な結果」8つの例
青信号の失敗の多くは、家の中で起こります。よくある対応と、ためしてほしい別のやり方を並べました。

| 親がついしてしまうこと | ためしてみること | 子どもが学ぶこと | |
|---|---|---|---|
| 起きない | 5回呼ぶ、服を着せる | 前の晩に一緒に目覚ましをセット、朝の声かけは1回 | 自分で時間を管理する |
| 宿題のノートを忘れた | 学校までバイクで届ける | 届けない。今夜、時間割を見ながら一緒にカバンをそろえる | 自分で準備する |
| 水や牛乳をこぼした | 取り上げて、親がさっとふく | ふきんを渡して「ふいてね、待ってるよ」 | 自分のしたことは自分で直す |
| おもちゃを出しっぱなし | 寝ているあいだに全部片づける | 片づけない。次に探しても見つからない | 物を決まった場所にしまう |
| おこづかいを初日に使い切った | 追加であげる | あげない。次の週は一緒に日ごとに分ける | 待つこと、ためること |
| 上着を着たがらない | 無理に着せて親子げんか | カバンに入れておき、寒ければ自分で出す | 自分の体の声を聞く |
| 宿題を急いでやり、まちがいが多い | 横についてひとつずつ直す | 「一回見直そうね」と言い、あとは先生の採点にまかせる | 自分で見直す |
| おもちゃを投げてこわした | すぐ新しいのを買う | すぐには買わない。一緒に直してみる | 自分の物を大切にする |
8つに共通するのは、親が代わりにやらない、叱らない、すぐに「助け」に行かない、ということです。自分から勉強する習慣がまだなら、自分から勉強する子にするにはもどうぞ。
失敗したあと、親は何と言えばいい?
子どもがつまずいた直後は、つい「だから言ったでしょ!」と言いたくなります。でもこのひと言で、子どもは自分を守ることに気持ちが向き、自分のしたことを考えなくなります。4つのステップをためしてください。
- まず気持ちに寄りそう
「今朝はあわてたね。どうだった?」 わかってもらえてはじめて、子どもは次を考える準備ができます。
- お説教も、追い打ちもしない
結果がもう教えてくれています。さらに責めると、子どもは親に腹を立てて、自分のことを考えるのを忘れてしまいます。
- 質問して、自分で工夫を考えさせる
「次はどこを変えてみる?」 完ぺきでなくても、子ども自身の言葉で言わせましょう。
- 信じて、もう一度やらせる
「明日はきっとできるよ。」 できたときは、したことをそのまま言葉にしてほめます。「今日は自分で時間どおりに起きたね。」
私たちの教室では、先生が代わりに珠をはじいたり、すぐに答えを教えたりはしません。計算をまちがえたら、先生は質問をして、子どもが自分ではじき直し、まちがいを見つけるのを待ちます。まちがえても自分で直せる――その感覚を家に持ち帰ってほしいと考えています。60分の授業の流れもご覧ください。
日本人はどうやって子どもを「見守る」の?
日本では、小さいうちから自分のことを自分でさせるのは、ごく当たり前のことです。その考え方は、次の3つから見えてきます。
「見る」と「守る」を合わせたことば。大人は近くでよく見ていますが、子どもに自分でやらせます。
ことわざです。本当にかわいいなら、手元に置いておくより、苦労も自分で経験させなさい、という意味です。
テレビ番組『はじめてのおつかい』(1991年から。Netflix では「Old Enough!」)は、小さな子がはじめてひとりで買い物に行く様子を、大人が遠くから見守りながら撮影しています。
日本の小学生は、次の日のランドセルを自分でそろえ、友だちと一緒に歩いて登校することもよくあります。日本の小学生の一日や日本人の自立の育て方もどうぞ。ただ、日本とハノイはちがいます。学びたいのは「見守る」という姿勢で、子どもにひとりで道を歩かせることではありません。
何歳で、何を自分でやらせる?
すべての子に共通する年齢の目安はありません。大切なのは、「全部やる」から「まったく手を出さない」へ一気に飛ばず、一段ずつ下がっていくことです。
- 親がやり、子は見る
やりながら、手順を言葉にする。
- 親がやり、子が手伝う
子どもは一部分だけ。
- 子がやり、親が手伝う
むずかしい所だけ手を貸す。
- 子がやり、親は見守る
近くにいて、口は出さない。
- 子どもがひとりでやる
親は結果を聞くだけ。

- 3〜5歳自分の身のまわりのこと
自分で服を着る、靴をしまう、水を注ぐ(少しこぼしてもだいじょうぶ)、おもちゃを片づける。
- 6〜8歳学校のこと
時間割を見てカバンをそろえる、目覚ましで起きる、忘れ物をしたら自分で先生に言う。
- 9〜12歳時間とお金
1週間の勉強の予定を自分で立てる、おこづかいを自分で管理する、大人が家にいるときに簡単な料理を作る。
これは私たちの経験からの目安で、できなければいけない基準ではありません。3〜6歳の子には、3〜6歳の日本式子育てもどうぞ。
おじいちゃん・おばあちゃんは孫がかわいくて、つい手伝いたくなるものです。前もって家族の目標を伝え(「今月は自分でカバンをそろえる練習」)、孫が自分でできたらほめてもらい、練習は一度にひとつだけにして、家族みんなで続けられるようにしましょう。
よくある質問
失敗させるのは、放っておくことではないのですか?
ちがいます。放っておくとは関心を向けないことです。小さな失敗をさせるとは、親が安全なことを前もって選び、近くで見守り、あとで子どもと話すことです。交通・水・火・薬のような危ないことは、親がいつもすぐに止めます。
何歳から、結果を自分で受けとめさせてよいですか?
3〜4歳から、とても小さなことで始められます。たとえば、水をこぼしたら自分でふく。大きくなるにつれて任せることも大きくし、6〜8歳はカバンの準備や目覚ましで起きること、9〜12歳は時間やおこづかいの管理を。あくまで目安で、子どもによってちがいます。
失敗して泣いたり怒ったりしたら、どうすればいいですか?
泣かせてあげて、気持ちを言葉にしてあげましょう。「先生に注意されて、悲しかったんだね。」 急いで代わりにやったり、お説教をしたりはしません。落ち着いたら、次はどうしたいかを聞きます。
自然な結果と罰は、どうちがうのですか?
自然な結果は、子どもの行動のあとに自然に起こることで、上着を着なければ寒い、といったものです。罰は、忘れ物をしたからテレビ禁止のように、親が関係のないことを足すことです。自然な結果は自分のしたことを考えるきっかけになり、罰は「見つからないようにする」ことに気持ちが向きやすくなります。
先生に「親が無関心だ」と思われたら?
先生に前もって、自分で起きる・自分でカバンをそろえる練習をしていることを伝え、ほかの子と同じように注意してほしいとお願いしておきましょう。前もって聞いていれば、先生も家庭と学校の連携だと分かってくれます。
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